Column 1 西荻窪のおみせ
創業30年以上の老舗喫茶店 物豆奇(ものずき)
入口の扉を開け、一歩足を踏み入れる。目に映るのは様々な種類の古い掛け時計と陶芸品、茶色を基調とした木造のテーブルと椅子。それらは都会の鉄の匂いをさえぎって、私たちに「ようこそ、ごゆっくり」と、あたたかい口調で語りかけてくる。
内装は昭和時代の日本と西洋の文化が入り混じった印象だ。けれども、西荻窪という街にすんなり溶け込んでいる。そんな喫茶店が、創業から30年以上経った今も、多くの人に愛されている『物豆奇(ものずき)』だ。西荻窪駅北口から、吉祥寺方面へ5分程歩いた場所にひっそりと建っている。
豊かな気分になる内装とBGM
椅子に腰をかけると、薄暗い店内を色とりどりのランプが照らしているのが見える。ランプの光がほんのり映っているコーヒーを飲むのは格別で、少し贅沢をしている気分。
その気分に歩調を合わせるようにBGMとして流れているモダンジャズのバラード・ナンバーが耳にすんなり入ってくる。すると自分だけの優雅な空間が出来上がり、そこに身を置き続けたくなる。絡まった気持ちの糸が丁寧にほどけていく心地になれるのは『物豆奇』の特徴だ。
楽しめるコーヒー
私が頼んだのはブレンド・コーヒー(400円)。濃すぎず、薄すぎず、程良い苦みが口に広がり、後にはさっぱりとした酸味が残る。地味でも派手でもない。けれども『物豆奇』と西荻窪の歴史を感じさせる熟練の味。バランスが丁度いいのだ。
スプーン半分程、砂糖を入れると、甘味の中から苦味がひょっこり顔を出してくるところが可愛らしい。それでいて、やはり後味はさっぱりしているからもっと飲みたくなる(私は実際に2杯頼んでしまったことがあります)。
もちろんコーヒーの種類は豊富。以前飲んだキリマンジャロも美味しかった。ケーキ・セットもあり、コーヒーとの組み合わせで味の表情の変わり具合も楽しめるのだ。「味にはうるさいよ」的なカフェ好きの方にもかなりお勧め。
自然に醸しだされる自由な時間
多くの喫茶店が並ぶ西荻窪にあって、品があるけど敷居の高くない『物豆奇』には、文庫本を片手に本を読みに来る人、世間話をしに来る人、一息つくために来る人、様々な人が集う。
それは『物豆奇』という喫茶店が、コーヒーとともにそっと差し出す自由な時間があるからなのだろう。まるでゆっくりと弧を描きながら進んでいくような時間がとても素敵だと私は思う。ぜひ足を運んでほしい。
店内で、あらゆる制約から解き放たれた自分がいることに気付くはず。もし、「今の時代は物質的な豊かさが気持ちの豊かさに繋がる」と考えられているとしたら、『物豆奇』が醸し出す雰囲気は、今の時代とは別の時間軸の中にある。それはスローライフとは異なり、ごく自然なものとしてある。
喫茶 物豆奇(ものずき)
住所:東京都杉並区西荻北3-12-10
電話:03-3395-9569
営業時間:11:30-21:00
定休日:不定休