Column 7 西荻窪のイベント・芸術
遊空間がざびぃ【ワークショップ編 一回目】
ワークショップというものをご存知だろうか?日本では『体験型講座』という意味で使われているものだ。様々な種類があるのだが、今回私は、遊空間がざびぃで『演劇』のワークショップに参加してみた。
Project*Rocca 劇場連続ワークショップ 【アトリエ 2010】
2010年4月7日から11日までの5日間の開催で、最後の一日はなんとワークショップ参加者で実際に公演までしてしまう構成。体験参加は一日からでもOKとのことなので仕事の都合もあり、7日と9日の二日のみを申し込んでみた。
しかし、興味はあるものの演劇なんてかろうじて学生時代に誘われてちょこっとだけ観たぐらいのもの。本当に大丈夫なのか、私?!
『セリフなんて言わなくていい』
ワークショップの紹介チラシには大きくそう書かれていた。そして、持ち物に室内履きと運動できる服装とある。...ってことは、発声練習やパントマイムや演技指導とか、とにかく体育会系な感じなのかな?寧ろ私は普通の運動ですら何年ぶりなんだけれど、本当に大丈夫かな...。。
期待半分不安半分な思いを抱え、初日の7日に遊空間がざびぃに足を運んだ。
入口で受付を済ませて主催者の方に軽く挨拶をし、更衣室で高校のジャージと体育館履きに着替えると、既に数人の参加者が念入りにストレッチをしていた。慌てて私も真似をしてみる。...とても固くなっていると実感。体も心も。
19時から21時30分の2時間半行われる。この日の参加者は13名。男女比は5:8と女性が少し多め。年齢も様々。やはり役者関係の方が多いからか、私以外の皆さんはなんとなく落ち着いているようにみえる。それでも、私と同じ一般参加の人もいるというのでちょっと安心。そしてなんと、がざびぃの経営者である『せん』さんも参加というので心強い!
「このワークショップでやりたいのは、目で見える表現技術ではありません!」
始まりの時間になり全員が集まって大きな輪になって座る中、講師である『なお』さんが皆の前でまず宣言した。
なおさん曰く、演劇には大きく分けて二つの異なる面があると言う。『目で見えるもの』と『目で見えないもの』だ。前者は私が想像した『表現技術』と呼ばれるもので、努力などで磨けるもの。そして後者は『感情や思考』と言った人の内側にあるもの。演劇はその『目に見えないもの』が刺激に反応することで、ふるまいとして『目に見えるもの』へとなっていくものらしい。このワークショップでは後者の『目に見えないもの』である感情や思考への刺激をテーマとしているそうなのだ。...ふーむ。わかったような...わからないような?
そして、同時にこのワークショップの三つの約束も示された。
1、がんばらない 2、ふつうにやる 3、相手に良い時間を渡す
リラックスして、仲間を信用する方向へ持っていこう!と言ってなおさんは笑った。
説明が終わり、ワークショップがいよいよ始まったのだが、やはりまずはメンバーの自己紹介。メンバーはあらかじめ渡されていた『呼んでもらいたい名前』が書かれた名札を身につけている。
しかし、出来るだけメンバー同士の顔と名前を覚えるために、自分の名前を皆に言う時に、自分で決めた覚えて貰うための動作をし、全員でその動作と名前を三度リフレインするのだ。ちなみに私は『ラク』なので『楽なポーズをします!』と寝そべったら、三度のリフレインはかなり激しい運動に!これを全員分やるんだから、楽しいけれど全然楽じゃない...。
「じゃあ、次はこの場所や空間と親しくなろうか!」
次に『なお』さんの指示によって行ったのは、各自一人の世界に入る作業だった。
まずは照明を暗くしてがざびぃ内をぐるぐると歩き周り、自分のお気に入りの場所を見つける。そして各自その場所に寝そべり、本気で自分の『腰』とおもいきり遊ぶ。次は『足』と。最後に『背中』と思う存分遊んで満足したら、小さく丸まり目を閉じ、自分の周りの空間の音に耳を済ませる。静かな静かな時間と空間に浮かんでいるようだった。その頃には私も何も考えず、完全に自分ひとりの世界に没頭していた。
そして今度はその状態からゆっくり時間をかけて立ち上がるように指示が出る。ただ歩くのではなく、自分のお腹の中に水の入った盥を思い浮かべる。その盥の中にはさらにボールが入っている。そのボールを揺らさないようにイメージして、重心を気にしながら歩き出すのだ。チャプンチャプンという水の音も聞こえないぐらい、ゆっくりと。
その状態のまま歩きながら合図とともにすれ違うメンバーと目を合わせる。一人だけの世界からまた『みんな』がいる世界へ戻っていくのだ。 次はすれ違った人と肘をぶつけ合う。出来たら足の裏を合わせる。これはかなり不自然な動きになり、おかしい。自分の世界に篭り無表情だったメンバーの顔に、だんだん笑いや照れといった感情が戻ってきている。そしてこの場のメンバーを全員が完全に認識したところで、次の指示が飛ぶ。
「3人組みになって!」
その場で目があった人、近くにいた人と条件反射で組むことになる。勿論、あぶれる人も出てくる。次は5人組み、7人組、そして最後に2人組み。偶然だが男女ペア5組、女女ペア1組の6組が出来た。
『ムーバー』 と 『レシーバー』
その2人組みで新しい作業は行われる。『ムーバーとレシーバー』という作業だ。
2人一組で分担を決め向き合って行う。リラックスした状態でお互いの目と目を合わせ見つめあい、ムーバーになった方が体を動かし、レシーバーは見つめあったままその動きを真似をする。とても簡単そうに見えた。お、これなら私にも出来そう♪
ちなみに私のパートナーとなったのは、『もっちー』さんという男性。彼も一日のみの参加で勿論初対面。そして今全くの偶然にパートナーとなった人だ。その人と目を合わせ続ける。それがこんなに難しいとは!
一回目。まず私がレシーバーをやったのだが、目がもっちーさんの動いている部分を追ってしまいなかなか見つめあうことができない。そして、無理に目を合わせようとすると、汗はでるわ心臓は高鳴るわ、無意識に目をそらしてしまうわ、身体が拒否感を示したことにびっくり!かなり動揺してしまった...。
そして、二回目は逆。だがレシーバーとなったもっちーさんは、なんと至って普通に出来るのだ!私の目を見たまま動きを真似し、平静で落ち着いている。うーん。この違いはなんだろう?最後の三回目。今度はムーバー役とレシーバー役を決めずに、二人の間で起こる自然の流れで行う。
ようやく慣れてきて目を逸らさずに出来たものの、今度は目を合わせるのがこそばゆく感じられつい「ぷっ」と噴出してしまった。まだまだ修行が足りないようだ...。それでも一回目よりはスムーズに出来てお互いにリラックス出来てきた自覚が生まれた。
周りの組の様子をみると、ある組は踊っているように見え、ある組は格闘技の試合に見える。全員で今の作業の感想を言い合い、緊張を和らげる。
「おにいちゃん、あのね...」
少しの休憩を挟んで今度も今の2人組みでの作業が続く。今度の作業はようやく演劇らしくなってきて、簡単な役を与えられた。男性は『お兄ちゃん』で女性は『妹』。そして妹は悩みを持っていて、お兄ちゃんに相談するという設定だ。
一つの縛りとしてお兄ちゃんは妹の相談に『言葉では出来るだけ答えない』。
各組それぞれの相談内容ややりとりは他の組には聴こえないので、完全に2人の世界で2人の芝居である。妹が『おにいちゃん、あのね...』というセリフでこの2人芝居は始まる。
妹の相談内容は何でもOKというので、せっかくだから私は実生活でかなり深刻に悩んでいる悩みを真剣にもっちー『お兄ちゃん』にぶつけてみた。もっちー『お兄ちゃん』はほぼ触れ合うぐらいの距離で目をみて頷いて心配そうに聞いてくれた。言葉すくなにアドバイスもしてくれる。時間が来て、各組に感想が聞かれる。
「台詞が邪魔だった。」
そのまま、更に演劇らしく一枚の台本が配られる。中身はやはり『お兄ちゃん』に『妹』が悩みを相談しているという内容。先ほどの作業と違うのは、この読み合わせは3組ずつ行われたので、残りの3組はその台本読み合わせの場面を見ることが出来た。
自分の組はさておき、私は他の組の演技に夢中!役者歴の長そうな者同士の組は本当に感情も間も凄い!と感激したり、同じセリフでも演じる人と解釈が違えばこんなに異なるのかー!と感心することしきり。これは面白い♪ これも輪になって感想を言い合う。「本物の兄がいるけれど、頼りないので相談はしたことがない!兄役の相手のが本当の兄より頼りがいがあった」という組あったり、「台本や台詞に集中する余りひきずられてしまったので台本が邪魔だった」という意見も多かった。
私も一枚に書かれた兄と妹の設定を考えこんでしまうあまり頭で考え込んでしまった。兄役のもっちーさんは逆に台本を多少無視して『兄』に徹してくれたことで、私も『妹』に戻ってこられた。うん。台本って邪魔かもしれない。
「組めて良かった。」
そして、これが最後の作業となったので、今度は組ではなくまた全体の輪に戻って感想を言い合う。もっちーさんから「色々あったけれど、ラクさんと組めて良かったです。」との言葉を貰う。私も同じ気持ちだった。 3つの約束の最後、「相手に良い時間を渡す」っていうのは、こういうことなのかな。と思えた一瞬だった。
これで終わるには、惜しいなあと思いつつ、ワークショップの終了時間が大分押してしまったので、お終いの挨拶もそこそこに慌しく解散となってしまった。
こうして、あっという間に一日目のワークショップは過ぎていったのだった。
< 遊空間がざびぃ【ワークショップ編 二日目(前編)】へ続く >
Project*Rocca劇場連続ワークショップ 【アトリエ 2010】(終了済み)
http://www5d.biglobe.ne.jp/~rocca/atelier/ate_2010.html講師:おきなお子(演劇ファシリテーター・えんがわカンパニー主宰)
http://engawa.ackk.org/■関連記事
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