Column 2 西荻の詩
2009/12/25
かえりみち
あの、駅前のやきとり屋のけむりと、
その中にいる人たちの煙草のけむりと、
働いた人の汗のにおいと、
飲んで、語って、笑った声と、
恋や、その他で流した涙が、
夕日と一緒に溶け合った、
そんな空気を通り抜け、
西荻の駅からうちへと向かう。
自分のへやには、
駅前とはちがった西荻があり、
いつもひっそり、しん、としている。
そしてテーブルに列ぶのは、
駅前で買った野菜やお惣菜。
食事を終えると鞄から、
安くて濃密な本を取り出す。
古本屋をハシゴして買った、
探してはいなかったけど欲しかった本。
手を洗い、本を拭いて、
横になってそれに目を通す。
しばらく読んで目を閉じる。
ひとりひとりに帰り道があることを思い出す。
私は昔、西荻ではないところで生まれた。
でも今私が帰るのは、西荻窪の駅前から
まっすぐ伸びた道の先にあるこの場所だ。
それはとてもよろこばしいこと。
それはとてもうれしいこと。
実家へは「帰る」ではなく、「行く」と言うようになった。
それはとてもうれしいこと。
それはとても必要なこと。
そして、誰かにとっては残酷なこと。
正しいかどうかはわからない。
それでもとてもしあわせなこと。
(了)